【2026W杯グループG第3戦】ベルギー、24発の猛攻も実らずイランと0-0ドロー。数的不利を耐えたイランがグループGの死闘を演じる

※本記事に記載されている内容は、あくまでも筆者個人の感想および戦術的見解であり、公式な見解を示すものではありません。

FIFAワールドカップ2026、グループGの第2戦。初戦のエジプト戦で攻撃陣の歯車が噛み合わず、苦しみながらも勝ち点を拾った「赤い悪魔」ベルギー代表と、下馬評で劣る相手に引き分けるのが精いっぱいだった「ペルシャの獅子」イラン代表が激突しました。お互いの今大会における「出来栄え」を占う極めて重要な一戦は、互いの意地と戦術がぶつかり合う息詰まる肉弾戦の末、0-0のスコアレスドローに終わりました。

試合は、前線の役割整理が鍵とされたベルギーが、大黒柱ケヴィン・デ・ブライネ(デブライネ)を中心に立ち上がりから猛攻を仕掛けます。前半だけで12本のシュートを浴びせ、ポゼッション率68%と圧倒しますが、イランの組織的なローブロックと守護神ベイランヴァンドの壁を崩しきれません。後半に入るとベルギーはルケバキオらを投入してさらに圧力を強めたものの、後半21分にセンターバックのンゴイが一発レッドカードで退場。数的優位を得たイランが終盤に猛反撃を展開し、ハイドレーションブレイク(飲水タイム)も戦略的に活用しながらベルギーゴールを脅かしました。

最終スタッツはベルギーのシュート24本(枠内7本)に対し、イランは7本(枠内3本)。ゴール期待値でも「ベルギー2.30 vs イラン0.74」と決定機の数で大きく上回ったベルギーでしたが、勝負強さを見せたイランの前に痛恨のドロー。グループステージ最大の山場を終えた両チームの戦術的ディテールを徹底的に解剖します。

目次

1. 両チームのシステムとゲームプラン:流動的なベルギーの「4-2-3-1」と、迎撃体制を敷いたイランの「4-2-3-1」

まずは、ピッチ上に並んだ両チームのスターティングメンバーと、それぞれの指揮官が用意したゲームプランから紐解いていきましょう。

ベルギー:デ・ブライネの自由度を軸に、役割の整理を図った「4-2-3-1」

ベルギーは、初戦の試行錯誤から前線の距離感を修正すべく、洗練された4-2-3-1のシステムを選択しました。最終ラインは右からムニエ(後半からカスターニュ)、メシェレ、ンゴイ、デクーパー。中盤の底にティーレマンスとラスキン(後半からファナケン)を配し、2列目は右にサレマーカーズ(後半からルケバキオ)、トップ下にデブライネ、左にトロサール。最前線にロメル・ルカク(ルカク)を据えた布陣です。

ベルギーのゲームプランは、デブライネをビルドアップの全権に据えつつ、左サイドバックのデクーパー(試合を通して5本以上のシュートを記録)を高い位置へ押し上げてピッチを広く使うこと。イランの4バックの脇(ハーフスペース)をトロサールやサレマーカーズが流動的に突き、ボックス内のルカクにクリーンな形で合わせる狙いを持っていました。

イラン:タレミの奮起と、コンパクトな2ラインで構える「4-2-3-1」

一方、格上相手に番狂わせを狙うイランも同じく4-2-3-1のフォーメーションを形成。最終ラインはハルダニ(後半からジャハンバフシュ)、カナーニ、ハリルザデー、ネマティ。中盤の底にエザトラヒとゴッドス(後半からモガンロウ)のダブルボランチを並べ、2列目は右に前節好調だったレザイーアン、中央にモヘビ(後半からトラビ)、左にハジサフィ(後半からモハマディ)。最前線に点取り屋のメフディ・タレミ(タレミ)を配した陣容です。

イランの狙いは、中央のスペースを極限までタイトに閉じてベルギーの縦パスを引っ掛け、奪った瞬間に快速ウイングや最前線のタレミにシンプルに当てるロングカウンター。前半はポゼッション率32%まで押し込まれながらも、想定通りの我慢強いブロックを完遂していました。

2. 【前半の攻防】ベルギーの12発の波状攻撃と、立ちはだかったベイランヴァンドの要塞化

前半の45分間(アディショナルタイム含め54分間)は、ベルギーが7割近いポゼッションを維持してハーフコートゲームを展開する一方、イランもワンチャンスから鋭い牙を覗かせる展開となりました。

前半9分:デ・ブライネの強襲と、イランの決死のブロック

試合開始直後からベルギーが主導権を握り、前半9分に最初の決定機を迎えます。左サイドのトロサールのクロスに中央でデブライネ(後半早々に5本以上のシュートを記録)が右足で合わせますが、イランのCBハリルザデーが身体を張ってブロック。そのセカンドボールを拾ったデクーパーが強烈なシュートを放つも、イランの守護神ベイランヴァンドが超人的なリフレクションで防ぎます。 イランも前半14分、カジサフィの配給からカナーニがエリア中央から右足で決定的な枠内シュートを放ちますが、ベルギーの守護神クルトワが立ちはだかり先制を許しません。

前半終了間際:ティーレマンスのゲームメイクと、耐え抜くイラン

前半30分のハイドレーションブレイク(飲水タイム)を経ても、ベルギーの圧力は弱まりません。前半44分にはティーレマンスのパスからデクーパー、サレマーカーズが連続して枠内を強襲しますが、イランのハリルザデーを中心とした低いディフェンスラインが驚異的な規律でこれをシャットアウト。ベルギーが12本ものシュートを浴びせながらも、0-0で前半を折り返しました。

3. 【後半の混沌】ルケバキオの投入による猛攻と、ゲームを一変させたンゴイの退場

後半、流れを変えたいイランのベンチはハルダニに代えてジャハンバフシュを投入。対するベルギーも後半13分にカスターニュ、ファナケン、そして右サイドのルケバキオを同時投入するドラスティックな選手交代を敢行し、直近15分のポゼッション率を68%まで引き上げてさらにアクセルを踏み込みます。

後半21分:ベルギーを襲った悲劇。ンゴイの一発レッドカード

後半14分にデクーパー、後半17分にはルケバキオが右サイドから左足で鋭い枠内シュートを放ち、ベイランヴァンドのセーブに阻まれながらもゴールへの予兆を高めていたベルギー。 しかし後半21分、試合の趨勢を決定づける事件が起きます。ベルギーのセンターバック、ンゴイが危険なファウルを犯し、主審から一発レッドカードを提示され退場処分に。数的優位を失ったベルギーは後半28分、エースのルカクを下げてDFテアテを投入せざるを得なくなり、ゲームは混沌とした最終盤へと突入します。

4. 【最終盤の死線】10人のベルギーの意地と、ベイランヴァンドが死守した勝ち点1

数的優位を得たイランは、後半21分にモハマディとトラビ、後半34分にはモガンロウを投入。直近15分のポゼッション率を54%まで押し戻し、高い位置からの連動したプレッシングでベルギーのビルドアップをハントしにかかります。後半36分にはエザトラヒがエリア手前から右足で決定的な枠内シュートを放ちますが、クルトワが冷静にキャッチ。

後半41分:デクーパーの5本目の執念と、神がかり的連撃セーブ

数的不利に陥りながらも、焦ることなく勝利を狙い続けたベルギーは後半41分、カスターニュのクロスから、この試合で5本以上のシュートを記録していたデクーパーがペナルティーエリア中央から右足で決定的なシュートを放ちます。ベルギーサポーターが劇的ゴールを確信した瞬間でしたが、守護神ベイランヴァンドが驚異的な反射神経でこれをセーブ!

アディショナルタイムに入っても、イランはモハマディのクロスからモガンロウが頭で狙う猛攻を見せましたが、ベルギーも途中出場のフェルナンデス・パルドやルケバキオが鋭いドリブルからシュートを放って牽制。最後の1秒まで集中力を切らさなかった両チームによる死闘は、0-0のままタイムアップの笛を聴きました。

5. 戦術的総括:勝敗(ドロー)を分けた3つのポイント

この熱戦において、お互いが勝ち点1を分け合う結果となった要因は、以下の3点に集約されます。

① GKベイランヴァンドとハリルザデーによる「要塞クオリティ」の完遂

ベルギーが2.30という圧倒的なゴール期待値を記録し、24本ものシュートの雨を降らせながらも無得点に終わった最大の要因は、イランの守護神ベイランヴァンドの計7本に及ぶ枠内セーブ、そしてセンターバックのハリルザデーのMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)級の粘り強い対応にあります。ルカクへの縦パスを遮断し、デブライネやサレマーカーズのシュートをブロックし続けた彼らの「個のディフェンスクオリティ」こそが、イランに貴重な勝ち点1をもたらしました。

② ケヴィン・デ・ブライネの「完全なゲーム支配」と、一歩及ばなかった決定力

ベルギーの攻撃陣は、初戦に比べて役割が大きく整理されていました。デブライネが中盤の底からバイタルエリアまで流動的にタクトを振り、デクーパーやトロサールを活かして完全にゲームをコントロールしていました。それだけに、後半21分のンゴイの不用意な一発退場によって、前線のインテンシティ(強度)をスクラップ(低下)させてバランスを取らざるを得なくなったことだけが、最大の誤算となりました。

③ 数的優位を得たイランの「プランB」と、ベルギーの執念のリスク管理

イランとしては、数的優位を得た後にモガンロウやジャハンバフシュを投入し、ハイドレーションブレイク後に運動量を上げてベルギーを押し込んだ采配は見事でした。しかし、ベルギーもルカクに代えてテアテを投入する「プランB(逃げ切り戦術)」で即座に対応し、ディフェンスライン(メシェレら)が最後まで集中力を維持。最終盤にフェルナンデス・パルドがカウンターからシュートを放ってリスクを限定させた組織的な規律の高さが、イランのジャイアントキリングを許しませんでした。

今後の展望:大混戦グループG、突破の行方は第3戦へ

グループステージ第2戦を終え、ベルギー代表にとってはシュート数24本(イラン7本)と圧倒しながらも0-0のドローに終わったことは、次戦に向けて大きな修正課題が残りました。特にンゴイが次戦出場停止となるディフェンスラインの再編成、そして「ブロックの内側からいかにクリーンに仕留めきるか」という決定力の精度を高めることが最大の生命線となります。

一方、最大の山場を不屈の闘志で耐え抜いたイランですが、ベイランヴァンドを中心とした強固なディフェンス規律、そしてジャハンバフシュやタレミを中心とした鋭いカウンターの形は、次戦の対戦相手にとって間違いなく最大の脅威となります。全チームの勝ち点が肉薄するグループGにおいて、いかにして勝ち点3をハントしノックアウトステージ進出を掴み取るのか、次戦のドラマからも目が離せません。

(執筆:サッカー解説者)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次